今月のびっくりどっきりCD
2003年の私的ベスト10(1)
(2004.1.30.)
今回からしばらく昨年度分新譜からの私的ベストCDを10枚取り上げる事に。 とはいっても順番通りにランク付けしたわけではないので念のため。 そんなわけでいきなり日本の現代作品からノミネート。

吉松 隆
Yoshimatsu Takashi(1953- )
交響曲 第5番 op.87(2001)
アトム・ハーツ・クラブ組曲 第2番 op.79a(1999-2000)
鳥の祝祭のための前奏曲 op.83(2000)

藤岡幸夫/BBCフィルハーモニック
(英シャンドス CHANDOS CHAN 10070)




日本の すごい ジャジャジャジャーン
昨今の現代作曲家といえばドラマやアニメのBGMやらCMやミュージカルの音楽とかいろいろ書きつつ、合間を見て商売抜きの (つまり、売れない)オリジナルのオーケストラ曲とかピアノ曲とか1回上演したらもう再演されないようなオペラとか書いているのが普通。 そのなかでも交響曲は最も売れそうもないものなので滅多に手がけられないものなのだ。ところが吉松隆は映画音楽の仕事は 引き受けないわCMソングは書かないわ『みんなのうた』も書かないわ(書いたら面白そうなのに)、と商業に直接関係しそうな音楽は 全然書いていない。唯一の例外は今放映中の『鉄腕アトム』。ではいつも何しているのかといえば、まるで19世紀の作曲家のように フツーに交響曲とか協奏曲といった本気のオーケストラ曲を書いている。

吉松隆は正規の音楽教育を受けていない(普通の4年制大学中退)。一時期エライ先生に習ったこともあったようだが後はほとんど独学。 さらに学生時代にバンドを組んでなんだか実験的なことをやっていたらしい。(『イカ天』とかに出て中途半端な音楽屋にならなかったのは幸い) その結果、ビートルズも歌謡曲もアニメやゲームBGMもその他プログレもスポンジのように吸収してそれをアマルガム状態にして吐き出すという、 なんとも僕らのような「選ばれし民(笑)」にはピンポイントな音楽を作り出したのだ。うむむ。(ちなみに、自分が吉松ファンになったのは 音楽はもちろんだが、雑誌でバルトークのバレエ≪かかし王子≫の舞台を「まるでワイヤール星人の集団です」とコメントしたから<笑) 晦渋なものでもなく、高尚ぶったものでもなく、非常に解り易いメロディとハーモニーとリズムを兼ね備えた「フツーの交響曲」だ。 特に≪交響曲第2番≫や≪交響曲第3番≫の終楽章のイケイケドンドン状態はあの伊福部昭の「ゴジラ、ゴシラ、ゴジラとメカゴジラ」を パワーアップして3倍速にしたようなものだ(乱暴な言い方だが)。大体、作曲家を目指した理由が「チャイコフスキーやシベリウスみたいに カッコよくてキレイな曲が書きたかったから」なのだから現代音楽特有(?)の鍋やヤカンを叩いているような曲を自ら書くわけがない。

さて吉松隆を最初に評価したのはやはりプログレの国、イギリスだった(まあ小澤征爾を最初に認めたのもフランスだったし。日本人は結構足元暗い。 しかも2人とも日本のネット世界では攻撃対象)。イギリスのシャンドス社は吉松隆の新作を優先的に録音できる契約を結び、 売れようが売れまいがガンガン録音している(幸い売れているらしい)。ありがとうシャンドス(吉松シリーズが始まる前から好きだが)。 ところで吉松さんは≪交響曲第3番≫の初演が成功した後(日本の評論家は全員無視したが)のインタビューで 「≪4番≫は別として≪5番≫は必ずジャジャジャジャーンで始めます」と語ったのだ。うお、予告ホームランか。でも誰もが知っている ジャジャジャジャーンでホントにやるんかい?なんてみんな思っていた。

2001年。世界初演の日がやって来た(その前の≪第4番≫は2000年初演)。所はサントリーホール、東京都交響楽団の演奏。指揮棒が振り下ろされた。 ジャジャジャジャーン!うわあっホントにやっちまった!ベートーヴェンの弟子リースがビクビクしながら控えめに使い、ブルックナーが避け、 チャイコフスキーがリズムを変え、マーラーもショスタコーヴィチも極力似ないように工夫し、アイヴズはギャグにしかしなかった、あの≪5番≫の 出だしに真っ向から体当たりしてしまった!だが、そっくりに聴こえるわけでもなく、しかもこれはこれでカッコいい。オケの人たちが 「ウヒヒヒ、うらうらうらーやっちまえー」みたいな顔して演奏しているのも面白かった。

そして初演後、イギリスで録音されたのがこのCD。指揮は初演と同じ藤岡幸夫。≪第4番≫の時にも指摘した通り、相変わらず表情付けが 一本調子だが曲自体に助けられた感じで、初演の時に気になった第4楽章の冗長さも演奏がこなれているせいかあまり気にならない。 しかしこれが2年前に同じ東京都交響楽団で≪第1番・カムイチカプ≫の超名演(あああ、なぜあの時録音しなかったのかっ)をやってのけた 沼尻竜典(この人の指揮した日本の現代作品はイイ)だったらどんなに凄かろうと想像してもみる。無いものねだりだが。とりあえず今は このCDが唯一の音源。是非自分の耳で確かめて欲しい。古今東西ベートーヴェンにまともに体当たりしている曲など滅多に無いのだから。 巨大掲示板で悪態つくのはそれからだ。(笑)

カップリングの2曲も聴き易い。≪アトム〜≫は弦楽プログレ合奏という感じ。曲の終盤でおやおや?という引用があるので注意。 ≪鳥の〜≫は簡単に言うと壮大なヒーリング系。


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2004.Same.,Fancy Free