今月のびっくりどっきりCD
(2004.1.17.)

フランツ・シューベルト
Franz Schubert(1797-1828)
交響曲 第5番 変ロ長調 D.485
交響曲 第8(7)番 ロ短調 D.759 ≪未完成≫
軍隊行進曲 第1番 ニ長調 D.733/1

(全てオルガン独奏用編曲版)

エルンスト=エーリヒ・シュテンダー(org)
※リューベック、聖マリア教会大聖堂
(独オーナメント Ornament Records 11463)




意外に美しい?オルガン版「未完成」
ブルックナーではあるまいし、シューベルトの交響曲をオルガンで?と思われがちだが、実は≪未完成≫は何十年も前にオルガンで(一部) 弾かれている。大昔の映画『未完成交響楽』の中で。

ある家が主催したサロンに招かれたシューベルトは丁度作曲中だった≪交響曲 ロ短調≫のピアノ譜を持参し、居合わせた客の前で披露する。 一同息を呑んで聴き入っていたが第3楽章(スケルツォ)が始まった途端、その家の娘が腹を抱えて笑い始めてしまった。 前の楽章のあまりの美しさとスケルツォの突拍子もない楽想とのコントラストに面食らったのか、とにかく途中で演奏を中断された シューベルトは気分を損ねて帰ってしまう。
後日、シューベルトの所にピアノ教師の職が舞い込むが、依頼主は件の交響曲を笑った彼女の家だった。初めは気分が乗らなかった当人たちだったが 何度かレッスンを重ねるうちに共に惹かれあってゆく。だが身分の違いというやつでそれ以上先に進まない。そうこうしているうちに彼女は親が決めた どこぞの貴族と婚約してしまい、ピアノ教師も御役御免。
ややあって、彼女の結婚式が教会で盛大に行われる。そこへシューベルトが現われ、「祝辞の代りに」と教会のオルガンで再び≪交響曲 ロ短調≫を 弾き始める。しかし第3楽章で彼女が泣き出してしまう。式はおひらき。シューベルトはまたも中断されてしまった第3楽章以降の楽譜を破り捨て、 第2楽章の最後のページに「わが恋終わらざるが如く、この曲もまた終わりなし」と書き付けて教会を出て行く。 こうしてこの2つの楽章しかない曲は≪未完成交響曲≫と呼ばれるようになった・・・

・・・という話なんですが歴史的には全くウソ。シューベルトの死後、この曲が発見されてからの捏造だが、 まあそんな話が出来ても仕方が無い。第1楽章の、何かに怯えて乱れる心を映し出すような主題提示なんか聴かされたら 「完成させるの挫折しました」というより「失恋しました」の方がそれらしく思えるというもの。

それはそれとして昔のモノクロ映画の貧弱な音でしか聴けなかったオルガン版≪未完成≫がここで聴ける(編曲は違うが)。バッハやバロック作品はもちろん、 リスト、ブルックナー、レーガー等をレパートリーにしているシュテンダーは早めのテンポをとってしゃきしゃき進めるのが常だが、このCDも例外ではない。 しかし録音の良さもあり強奏でも音が混濁せず大変美しい。シューベルトのロマン性よりは古典的造形美に焦点を当てた演奏ではあるが、個人的には 教会の残響を生かしてタメを作った遅めのテンポのロマン派風解釈で聴きたかった気もする。さて、≪未完成≫以上に面白かったのはカップリングの ≪第5番≫。やや小ぶりだが愛らしい佳作として知られるこの曲が、このCDではまるでブルックナーの初期の交響曲のように堂々たる姿で 立ち現われる。オーケストラで聴くよりカッコイイ。特に第2&3楽章は傾聴に値すると思う。総じて割とお奨めの内容ではあるが、このCDの弱点は ≪未完成≫がしっとり終わった後に≪軍隊行進曲≫が「てってけてーのてってけてーのてってってってってー」と能天気に始まって気分ぶち壊しになること(笑)。 実は現存する未完の第3楽章もそれに近いので、映画の中の「彼女」が笑ってしまったのも解らないでもない。

※補記:≪未完成≫の「第8番」という番号は通称。最新の全集番号は「第7番」。それとこのCDにはただ≪軍隊行進曲≫としか表示されていない (不親切だなー、ドイツ人なら誰でもわかるんだろうけど)がここに収録されているのは有名な「第1番」(原曲はピアノ連弾)。


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2004.Same.,Fancy Free