今月のびっくりどっきりCD
(2005.9.3.)

オットリノ・レスピーギ Ottorino Respighi(1879-1936)
交響詩≪ローマの松≫
尾高忠明/BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団

モデスト・ムソルグスキー Modest Mussorgsky(1839-1881)
組曲≪展覧会の絵≫(様々な編曲者による管弦楽版)
レナード・スラットキン/BBC交響楽団&BBC交響合唱団男声部

*プロムス2004におけるライヴ録音。
(ワーナー・クラシックス Warner Classics 2564 61954-2)


人種の坩堝ならぬ、編曲技法の坩堝。
毎年7〜9月にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催されているプロムナード・コンサート=通称「プロムス」は、世界で最もくだけていて 敷居が低い音楽祭ではないだろうか。ホールのアリーナ席は撤去されていて胡座かいたり寝ながら聴いていいし、最終日はコスプレしてもプラカード (「世界平和」とか「核兵器廃絶」とか「恋人募集」とか)や風船を持参しても楽器を持ち込んでもOK。演奏中に歌ったり野次飛ばしてもOK。 指揮者の後で指揮真似してもOK(←結構居る)。もはやなんでもありだが、皆はじけるタイミングというものを心得ていて聴くべきところでは 真面目に、騒ぐところでは全開でと、一人一人が本当の意味で音楽に乗っているのはさすが400年以上音楽輸入大国のイギリスだけのことはある。
しかし敷居が低いだけではない。プロムスは毎期間中にいくつかのテーマを設定し、それによってプログラムを組んでいて(現代作品の初演も多い)、 それは招聘される外来の演奏家たちの演目にも反映される。常に問題意識や探究志向が強いのだ。2004年は没後100年のドヴォルザークをはじめとする スラヴ系の作品が多く演奏されたが、スラヴ系といえば≪展覧会の絵≫が出てくるのは当然の成り行き。

さてさてさて、≪展覧会の絵≫は皆さんご存知の通りもともとピアノ曲で、1922年にラヴェルが編曲した管弦楽版が発表されてから俄然有名になったけれど、 ラヴェル版以外にも様々な編曲版が存在する。いちいち挙げたらきりがないが全部が録音されているわけでもないし、普通聴かれるのはラヴェル版ばかりで その他は耳にする機会はほとんど無くてなんだかもったいない。そこでこのCD。ワーナーがプロムスのライヴ録音をチョイスしてCDリリースするシリーズの中の一枚。
ここでスラットキンは≪展覧会の絵≫の15の部分を全て異なる編曲版で演奏するという、普通は考えただけで止める暴挙(?)を敢行。 冒頭を含め曲中に5回出てくる「プロムナード」も毎回違う編曲。ラヴェル版は最後の方(「死者との対話」)でこっそり使われるだけ。某日本人指揮者に 「下品、最低」と言われたアシュケナージ版も使われているが、あてがわれた曲(「ブィドロ」)のせいかあまり被害は無い(笑)。 これは選曲の勝利。「プロムナード1」のエリソン版はチン、トン、シャンとパーカッションだけで始まっていきなり意表を突いてくるし、「プロムナード4」の オルガンを模した響きのシンプソン版もいい。「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ」のウッド(プロムスの創始者)版の奇怪な響きや 「プロムナード5」のレナード版の威風堂々の歩みはカッコいい。「バーバ・ヤガ」のストコフスキー版も往年の大指揮者の手によるものだけあって ケレン味たっぷりで流石と思わせるが、一番驚いたのは終曲「キエフの大門」のガムレイ版。教会の鐘のように重々しく銅鑼が鳴り、オルガンと管弦楽が 燦然と響き、男声合唱によってロシア聖歌が静かに歌われるが、やがてオルガンの音に融け込み、再び管弦楽の全強奏で終結する。
さてこの演奏、編曲の年代もオーケストレーションの様式も編成も何もかもバラバラで統一感も何もあったものではない。スラットキンは人種の坩堝である アメリカ生まれの指揮者だからこんなゲテモノ企画も抵抗無く実行できるのが強みだが(アンコールに「スターウォーズ」とか平気で演るし)、 さてこれを展覧会と見立てたらどうだろう?様々な技法や題材や雰囲気の絵(曲)があって、ゆっくり歩きながら眺め、立ち止まったり、前に戻ったり、 あっさり通り過ぎたり・・・そう、これはオーケストラという美術館で行われている編曲技法の展覧会なのだ。

併録(CDではこちらが1曲目だが)は言わずもがなの華麗な名曲。尾高さんはエルガー・メダルも授与されているイギリス人には馴染み深い指揮者で、 このオーケストラの音楽監督を務めたこともあり、レコーディングもしているしプロムスにも出演しているので、お互い周知の仲、 というわけでノリノリの快演。聴衆の大喝采も納得。


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2005.Same.,Fancy Free