今月のびっくりどっきりCD
(2005.10.9.)

セルゲイ・ラフマニノフ Sergey Rachmaninov(1873-1943)

交響曲 第2番 ホ短調 op.27

ゲンナジ・ロジェストヴェンスキー/ロンドン交響楽団
(英Regis RRC1210)


ノーカットで聴く、天下のエロゲ交響曲。
ウケないわけがない、泣けないわけがない。『これ18禁(=交響曲)じゃなくてもいいね。』 『今度プレステのゲーム(=ドラマのBGM)になるらしいよ。』・・・これを地でいった大ヒット作。

モスクワ音楽院では優等生で通っていたラフマニノフ(反対に問題児はスクリャービン)は突然壁にぶち当たる。1897年(ブラームスの没年)に 意欲作≪交響曲第1番≫の初演が大失敗。「もし地獄に音楽学校があるのならラフマニノフは優秀な生徒だろう」と散々に酷評されてしまう (今聴くとこんなに鳴りっぷりのいい曲もないのだが)。そのためラフマニノフは一時期作曲不能になるほどの精神障害を被ってしまい、 ダールという神経科医師の治療により4年後に復帰する。そこで発表したのは≪ピアノ協奏曲第2番≫。全編泣き落としの嵐のようなこの曲は バカ受け。
さらに7年後、≪交響曲第2番≫が初演されたが、『○○が泣けたから、新作の××も絶対感動ものだよ』的集団心理が聴衆に働いていたのか、 この交響曲は圧倒的な成功を収めたのだった。

≪第1番≫の先鋭性から比べると退嬰的で、聴衆の趣味に迎合しているようにも思える一見時代遅れの後期ロマン派型交響曲だが、 第1楽章の序奏の旋律から全ての主要主題が派生していたり、やはり第1楽章の主部冒頭から楽器を変え音価を変えて延々と奏され続ける 「タ、タータ・タ、タータ」という基本リズムが、作品の印象をじわじわと聴く者の脳裏に焼き付ける効果を生み出しているなど、 実は結構計算された曲作りだ。
今でも泣き落としの技術は一級品だし、各楽章の旋律が魅力的でハマっている。 「6人もいるけどみんな可愛いし、どうしようか」状態。そう、この交響曲はエロゲで説明できてしまうのだ。

第1楽章の序奏は低弦の響きに支えられて管楽器が暗い表情で哀愁を帯びた旋律を訥々と語り始める。「遠くの山の木々の葉が赤く色づく季節、僕は この街にやってきた・・・」という感じで、すでに盛り上がっているが主部に入ると怒涛の泣き落としが始まる。美しいが寂寥感漂う第1主題は 主人公が住み込む屋敷の一家の長女だ。深い碧の瞳を持つ整った顔立ちで流れる黒髪が美しいが何となく病弱(やっぱり)。 第2主題は7つ下(なぜか)の次女。顔立ち(=旋律)は姉に似ているもののこちらは快活。人なつこく主人公に「お兄ちゃん」とまとわりつく (えー)。以下、各楽章そういう展開。
第2楽章は屋敷の数ヶ月。楽しいなあ、僕はどっちのお嬢さんが好きかなあ、○○家のお嬢さんは高飛車だなあ、花屋の娘もいいなあ。
第3楽章で泣き落としはさらにエスカレート。お兄ちゃんはあたしとお姉ちゃんとどっちがいいの?ごめんなさい私長くないかもしれない、ええええええっ?とか。 哀しみといじらしさが、ない交ぜになったように延々と続くクラリネットのソロでさらに涙増量。
第4楽章はどの選択肢でもハッピーエンド。ハリウッド映画のBGMを先取りしたような豪華で壮麗、しかも第3楽章の旋律も回想されて 「楽しい中にもちょっと痛い想い出が・・・」という感じで泣きも入る大団円。「私、お姉ちゃんの分まで幸せになるわ!」みたいな。 さらに全強奏で和音を5回叩きつけてもう有無を言わせない周到さ。これも序奏の音型が変化したもの。はい、スタート画面に戻って CGモードに入ってね。w

ところでこの曲、大成功はしたものの唯一の欠点はやたら長い事(作曲のコンセプト上、仕方ないが)。今はどうということはないがレコードも 無かった時代に全曲50分以上は長すぎ、そんな理由で演奏頻度が落ちるのはつまらないのでラフマニノフも各楽章で部分的に省略を許可していた。 今は省略せずに演奏されるのがほとんどだが、それでもやっぱり長すぎると思われるらしく第1楽章の反復は省略される事が多い。 このCDは第1楽章の反復も実行し、しかもそれに輪をかけてスローテンポなので演奏時間は66分。数字だけ見れば気が遠くなりそうだが、 実際はロンドン響の高度な合奏力から生まれる適度な緊張感と、読響への客演で御馴染みロジェストヴェンスキーの絶妙なサジ加減の表情付けによって なかなか飽きさせない。1988年の録音でおそらく以前は別社で出ていたものをレーベルを代えて最近再発売されたものらしく、 HMVでは1145円。買うしか!

※本稿は別のCDのために書いた4年前の文章を現状に合わせて改稿したものです。


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2005.Same.,Fancy Free