今月のびっくりどっきりCD
(2003.5.23.)

ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
Ludwig van Beethoven(1770-1827)
交響曲 第5番 ハ短調 op.67
交響曲 第6番 ヘ長調 op.68 ≪田園≫


ロジャー・ノリントン/シュトゥットガルト放送交響楽団
(独ヘンスラー hanssler CD 93.086)




名曲の既成観念を払拭せよ!
小中学校の音楽の時間に『運命交響曲』だと教えられて聴かされた、この曲の第1楽章は一体どんなに退屈で押し付けがましい演奏だっただろう? 妙に味付けされた作曲者の過酷な人生と、同様に捏造されて一人歩きした作品の概念がどれだけの人間をクラシック音楽嫌いにしてきただろう。

勝手にこの曲を『運命と戦う人間の姿を描いたもの』などと決め付けてくれた学校教育はどう責任をとってくれるのかな?『運命』のタイトルは 正式名称じゃない。アレは単なる通称。作曲者は鳥の鳴き声から例の音形を導き出した、とすら言われているのだから。それよりも一つの音形が 軸となって全曲を統一し圧倒的な求心力を持つに至っているという事とか、単純にすげぇカッコいいだろ?という事の方が重要だ。 「ハ短調がハ長調に転ずる事によって人間の精神の勝利を表現しています」などと答案に書いて100点取っても何の役にも立たない。 せいぜい会社帰りにスナックで音痴ぶりを披露するサラリーマンを量産するのが関の山。

そこでこのCD。通常のオーケストラに18世紀当時の奏法と楽器を一部適用、後世の人間が楽譜に加筆した部分はすべて排除し文学的味付けは皆無、 「運命らしさ」はこれっぽっちも無く、ただただ音楽の持つ運動性と力感のみの表現に徹した、ものすごくカッコいい『ハ短調交響曲』の登場だ。 ベートーヴェンが記した反復の指定は全て実行しているにも関わらず、圧倒的なスピードと推進力のために全く曲の長さを感じさせない。 さらに小編成のために各パートの動きが透けて見えるようで、鈍重な響きはゼロ。あまり語られることが無いベートーヴェンのオーケストレーションが もの凄く特殊で神業的な事がこれで実感できるはず。立ち塞がる敵でもなぎ倒しているかのような、鋭く重量感のあるティンパニの打撃音もいい。

もちろん併録の≪田園≫(これは正式名称)もフツーの演奏であるわけがない。ここでも反復は実行しているのに往年の大指揮者達のノロノロ演奏を 尻目に全曲40分フラットで駆け抜ける。まさに「空青!早く!」。しかしせっかちな印象は無いし、何より終楽章が夕映えの広大な空のように非常に美しい。 本当の癒し系ってこういうのを指すのじゃないだろうか。


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