今月のびっくりどっきりCD
(2007.1.15.)


“フルート・レヴォリューション”
ジャン=ジャック・ルソー:≪ヴィヴァルディの春≫
ジュール・マスネ:初見用小品1881年用,初見用小品1887年用
アルバート・ケテルビー:演奏会用スケルツォ
セザール・フランク:コンクール用小品
フレデリック・ショパン:ロッシーニの主題による変奏曲
ピョートル・チャイコフスキー:フルート小協奏曲(J.ストロース補完版)
深井史郎:小間奏曲
ツェーザリ・キュイ:スケルツェット
ヨーゼフ・ラスカ:≪奈良≫(寺の静寂/聖なる鹿たち/大仏)
ウラディーミル・ツィビン:アレグロ・コンチェルタンテ 第1番
冬木 透:≪魔笛≫の主題による変奏曲,≪帰ってきたワンダバ≫
武満 徹:≪Mi-Yo-Ta≫

難波 薫(フルート)&沼尻竜典(ピアノ)
(たまゆら,KING RECORD KKCC 3015)

もの凄く推薦 潔く、カッコよく、エレガントにワンダバ。
何の変哲もないデザインのジャケットだけ見れば「なんだ最近流行りのJ-CLASSICってやつか」と思われるのがオチである。 しかしそれは罠だ(何の)。このCDは業界でありがちな「美人アーティストをフューチャーした名曲集」の類ではない (大体そんなもんこのサイトで取り上げるわけないし)、タイトル通りのレヴォリューションなCDだ。レヴォリューションってことは 「潔く、カッコいい」んだろうな?って何年前のネタだ。だが、もちろんこのCDは「潔く、カッコいい」。

一般的にロマン派以降でフルート主体の名曲を書いた大作曲家はほとんどいないのが現状でドビュッシーの≪シランクス≫やプロコフィエフの≪ソナタ≫、 ドップラーの≪ハンガリー田園幻想曲≫、ライネッケの≪ウンディーネ≫あたりしか思いつかれないのが現状(ドビュッシーやプロコフィエフはともかく、 ドップラーやライネッケでは普通の人には「誰?」というレベルだ)。そうなると誰でも知っていそうなクラシックの名曲(オペラ・アリアとか)をフルート用に編曲して お茶を濁す、というのがこの種のリサイタル盤には多い手だ。 しかしこのCDはフルートの名曲を残しているバッハやモーツァルトはおろか定番の編曲モノも、一般的な名曲というものが一切全く綺麗さっぱり入っていない。 そして、どこから見つけてきたんだという感じの小品やフツーは録音対象にならない曲ばかりで構成されているわりには、結構聴かせる曲が揃っている。 曲のネームバリューで売ろうとはせず、フルートという楽器そのもので真向勝負のコンセプトが「潔く、カッコいい」。

さてこのCD、1曲目からいきなりすごい。あの啓蒙思想家(で、作曲やオペラの台本も書いていた)のルソー(1712-1778)がヴィヴァルディの ≪春≫を無伴奏フルート用に編曲したもの。さわりだけではなく原曲通り三つの楽章を忠実に再現している。オーケストラをバックにヴァイオリン独奏のパートを フルートで吹いているというのはランパルやゴールウェイのCDにあるが、完全なソロというのは珍しい。次は≪タイスの瞑想曲≫で 御馴染みのマスネ(1842-1912)が教育用に書き下ろした小品。こんなものは音楽学校の生徒かブラバン関係者でもないと知らないだろうし、 もとより録音されるものではない。
セミ・クラシック曲が知られているケテルビー(1875-1959)の曲も珍しいが、≪ペルシャの市場≫などよりはるかに面白い。フランク(1822-1890)や キュイ(1835-1918)の小品も全く無名だが気の利いたものだし、まったく「らしくない」ショパン(1810-1849)の14歳の時の小品(主題は歌劇≪シンデレラ≫から 採られている)もレア度高し。さらにレアなのはチャイコフスキー(1840-1893)最晩年の未完成作品の≪フルート小協奏曲≫が補完されたものだが、 ≪悲愴≫や他のチャイコフスキーの曲のメロディが出てきたりと、ただのパラフレーズっぽい怪しい曲だがハナシのタネに聴いておくのも一興。
日本に長期滞在し、日本の風土に取材した曲が多いと言われているラスカ(1886-1964)や(「間」の演出がいい)、ツィビン(1877-1949)の 正攻法で華麗な小品も掘り出しもの。

日本人作品の深井史郎(1907-1959)や武満徹(1930-1996)のドビュッシーやプーランクに通ずるエスプリが感じられる小品もいいが、 冬木透(1935- )もここに名を連ねているのは個人的には嬉しい(見方によっては客寄せパンダ的ではあるが)。
一つは昔のTVドラマ用に書かれたモーツァルトの曲を素材にした曲をフルートとピアノのためにアレンジしたもの、そしてもう一つは このCDのために書き下ろされた、タイトルからも判る通りあの曲だ!『帰ってきたウルトラマン』の「番組冒頭のジングル」「MAT出動」「戦うウルトラマン」の 3曲が接続曲風に編曲されている。ピアノが有名すぎるあのリズムを続けるのをバックにフルートがやはり御馴染みのメロディを奏でれば、年齢(笑)によっては 泣けてくる人も。しかし編曲のために妙にエレガントで美しい。ワンダバなのにエレガント、とはなんだかミスマッチで面白いし、最後に「MAT出動」が 回想される部分はフランス音楽でも聴いているような気になってくる。
難波薫のフルートは初めて聴いたがのびのびとした吹きぶりがいいし、指揮者の沼尻竜典が弾くピアノも控えめだが美しく、好サポートだ。




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2007.Same.,Fancy Free