今月のびっくりどっきりCD
(2005.5.7./6.23.改訂)

ドミトリ・ショスタコーヴィチ Dmitri Shostakovich(1906-1975)

交響曲 第1番 へ短調 op.10
交響曲 第5番 ニ短調 op.47

クルト・マズア/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
(ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団自主制作盤 LPO-0001)

マズアの すごい スローテンポとバスドラ
ロンドン交響楽団をはじめとして、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団ハレ管弦楽団など、イギリスでは オーケストラによる自主制作盤のリリースが盛んだ。イギリスもオーケストラはなかなかの赤字財政、レコード会社はコスト気にして録音量を減らして 頼りにならないので(EMIとかEMIとかEMIとか・・・)、じゃあ自分達で稼ぐぜ!とばかり演奏会のライヴ録音を厳選して(あるいはセッションを組んで) 発売をはじめたというわけだ。今のところリリースサイクルが短くコストパフォーマンスが高いロンドン交響楽団の一人勝ち風だが (個人的にはハレに頑張って欲しい)、ここにロンドン・フィルが参戦した。BBCとの所有権の兼ね合いでかつての音楽監督テンシュテットの音源が どれくらい確保できるかが問題だが、ハイティンクやトムソンの音源も持っていそうな気がするのでロンドン交響楽団といい勝負ができそうだ。

さてさてさて第1弾として4枚が最近リリースされたが、記念すべき1枚目は現音楽監督のマズアの去年のライヴ録音からショスタコーヴィチの名交響曲2篇。
レニングラード音楽院の卒業制作だった≪交響曲第1番≫は初演大成功、ショスタコーヴィチには「ソヴィエトが育てた若き天才」という肩書きがついてしまう。 余計なお世話だ。ちなみにこの曲、≪第1番≫とかいう割には肩に力が入ってなくてどこかすっとぼけた所と場違いにシリアスな部分が交錯する。 この作品のギャグはOKで、後の≪第9番≫のアッパラパー風味が共産党から総攻撃を食らったのは何だか非常に解せない。そういう時代だったといえばそれまでだが、 創作活動に政治が介入するのは厄介なもの。
第1楽章がOVA『ジャイアントロボ』第3巻のBGMに似ている≪交響曲第5番≫も当時の共産党の攻撃をかわすために書いたものでベートーヴェン風 「闘争から勝利」という見かけのコンセプトが大受けして「社会主義リアリズムの偉大な成果」などとおエラいさんを大喜びさせ、≪革命≫などという 副題までつけられてしまった。たしかに上っ面を聴いただけでは終楽章は大勝利に感じるのだが、実はお上から「お前らは幸福だ、幸福だと感じろ、 愚民どもが」と鞭で打たれて仕方なく幸福そうな顔をしている国民を表したりしてなかったりという作曲者のオフレコな話もあって未だに謎な曲だ。 そんなわけで指揮者がこの曲をどう解釈するかでテンポからしてまるきり変わってくる。特に変わるのは終楽章のコーダで、大きく2パターンあるが、 一つは初演の指揮をしたムラヴィンスキーの採った、遅めのテンポで堂々とした終結。いかにも大勝利パターンでロシア系の指揮者は大体こちら。 もう一つはいわゆる西側の指揮者に多い、急速なテンポで駆け抜ける終わり方。これは作曲者のオフレコ話を参照したり政治云々を考慮した結果。 こちらの方が「お前らは・・・」というくだりを表現できているという見方もあるが、真相は闇の中。ところがこのCDでのマズアはそのどちらでも ないような気がする。遅いことは遅いがいくらなんでもこの止まりそうな遅さは今まで聴いた事が無い。去年暮れに出たロストロポーヴィチ (ショスタコーヴィチと旧知の仲)のライヴ盤も遅かったがこれはさらに遅い。ここまで遅いと大勝利どころか逆に権力者に蹂躙されてぐうの音も出ない 状態だ。そして終結直前の大太鼓の連打は絶望に打ちのめされそうだ。
※最近読んだ本によるとコーダのテンポ指定のメトロノーム表示が今までの出版譜は誤植で2倍近く速くなっていたらしい。つまり遅いテンポは作曲者直伝で、 速いテンポは楽譜をそのまま演った結果、ということになるのだが・・・そうあっさり割り切れないのがショスタコーヴィチの嫌な(=謎な)ところ。 それにしてもマズアの演奏は限界を超えて遅すぎ(いい意味で)。
自分にとってマズアは今まで大雑把な指揮をする人という印象が強く(マーラーやブルックナーは全然ダメだった)、積極的に聴きたいと思う 指揮者ではなかったが、去年発売されたフランス国立管弦楽団とのベートーヴェンの≪交響曲第2&6番≫とか最近FMで流れたキーシンとの ライヴ等もあり、しばらく動向を追いたくなった。そんな気を起こさせるなかなかいいCDだった。


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2005.Same.,Fancy Free