今月のびっくりどっきりCD
2003年の私的ベスト10(6)
(2004.4.13.)
現在、昨年度分新譜からの私的ベストCDを10枚取り上げています。 とはいっても順番通りにランク付けしたわけではないので念のため。 今回は二次大戦直後の歴史的録音。

ヒンデミット自作自演集1954−57
パウル・ヒンデミットPaul Hindemith(1895-1963)
管弦楽のための協奏曲 op.38
ピアノ、金管楽器とハープのための協奏音楽 op.49
交響曲 ≪画家マティス≫
交響的舞曲集

≪四つの気質≫(ピアノと弦楽のための主題と変奏)
ウェーバーの主題による交響的変容
≪アモールとプシケ≫
(あるバレエのための序曲)
交響曲 ≪世界の調和≫

パウル・ヒンデミット/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(独ドイツ・グラモフォン Deutsche Grammophon 474-770-2、3枚組)

冷ややかな音の構築物に隠された激情
ヒンデミットはマーラーやリヒャルト・シュトラウス達に続く世代の人。そのヒンデミット(指揮者としても知られている)が戦後にドイツ・グラモフォンに 残した自作の演奏の復刻集で、個人的には狂喜のセット。フランス近代音楽風のようでそうでもなかったり、ストラヴィンスキーの新古典主義時代風だけど そこまでパサパサしてない、半ば調性感が崩壊しかけていて、それでいてドライだけれど聴き手を突き放しているわけでもない、なんだか非常に危うい 位置にある音楽。初めて≪画家マティス≫を聴いた時になにやら微妙に不安定な節回しとハリウッド映画音楽ばりのマッシーヴなパワー感とその割には どこか冷めている作曲者の意識が見え隠れしているような気がして、それ以来自分にとっては気になる作曲家であり続けている。

若い頃はリヒャルト・シュトラウスの≪サロメ≫や≪エレクトラ≫のような激烈な音楽を書いていたが(歌劇等はストーリーも結構挑戦的)、このセットに 収められている作品はその後、穏健派に転向したかのように思われていた1930年台以降のもので、眺めただけではつかみ所の無い所謂「説明的な」題名の曲が多い。 が、これがある意味罠(笑)。op.38など何の変哲も無い題名なのに実は結構はっちゃけていて解り易かったりする(しかもあっという間に終る)。 op.49もいかにもドイツ的なタイトルでガチガチの現代曲かと思いきやフランス近代風の洒脱な音楽だったり。≪四つの気質≫≪ウェーバーの主題による交響的変容≫は戦時中亡命していたアメリカで書いた曲で、≪四つの気質≫はバレエとしても上演された事があり、 ≪ウェーバーの(略)≫では題名からはおよそ想像もつかないノリの曲でなんとなくジャジーなスウィング感が素晴らしー(この曲にはバーンスタインの 爆演があるので是非お試しあれ)。 ≪世界の調和≫は後述の≪画家マティス≫と同様、同名の歌劇(ケプラーを主人公にしている)から 編曲されたものだが、このセットの中で最もシリアスな作品かもしれない。媚びたところが微塵も無い厳格な音の構築物という印象が強い。 しかしこの誰も寄せ付けないような冷たい外見の向こう側に、煮えたぎるような情念が渦巻いているのが感じられて「聴き辛いなー」などと思っても ついつい何回も聴いてしまわせるところがステキ。

ところでアメリカに亡命する羽目になった原因の一つでもあるのが、おそらくヒンデミットの曲では一番有名でCDも多い≪画家マティス≫。元々は歌劇で、 民衆を煽動して革命を進めた中世に実在した画家(マティアス・グリューネヴァルト)に取材したストーリーが反ナチスとみなされて初演を阻止されたのだが、 ヒンデミットは歌劇の音楽を再構成して三楽章の交響曲を作曲、名指揮者フルトヴェングラーによって初演されたがこれもナチスの攻撃対象になり、 ゲッペルスとフルトヴェングラーが一触即発の状態になったのは今でも語り草だ。まあそんなエピソードを抜きにして、歌劇の内容を知らなくても 充分聴き応えのある(ヒンデミットもそういう意図で書いたのだし)、オーケストラの機能をフルに生かした純器楽交響曲として非常な秀作であることは 間違いない。しかしそれにしてもこの交響曲の後半の嘆きと怒りと平和への祈りがごっちゃ混ぜになった内容は凄い。ところがそれをハリウッド的 豪華さのオブラートで包んで聴き手に提供するのだ。言いたい事がたくさんあってストレス過多なのに、努めて平静を装って「いや、だいじょうぶですじょ?」 などと言っているみたいだ。

年代的にモノラルなのは致し方ないとしても前回のクレンペラーのCD同様に鮮明な録音で聴き易く、さすがこの時期のドイツの録音技術は 世界一ィィィィィィだ。カラヤンを音楽監督に据えて戦争の打撃(戦前のメンバーは亡命したり戦死したりしているのが少なくないので)からの建て直し を開始していたベルリン・フィルの演奏も上々で単なる歴史の記録では終っていない。それにしても戦争の元凶であるナチスの元党員であるカラヤンが ベルリン・フィルの音楽監督になり、そのオケをナチスに追い立てられたことのあるヒンデミットが指揮しているというのはなんだか不思議な感じだ。 ボーナス・トラックとして、1956年に指揮者としてベルリン・フィルと来日した時のインタビューが収録されているが、 その肉声はある意味予想通りの早口でよどみなく淡々としたものだった。


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2004.Same.,Fancy Free