今月のびっくりどっきりCD
2003年の私的ベスト10(2)
(2004.2.2.)
現在、昨年度分新譜からの私的ベストCDを10枚取り上げています。 とはいっても順番通りにランク付けしたわけではないので念のため。 今回は現代作品から急に初期ロマン派に跳びます。(レーベルは同じだが)

ニルス・ウィルヘルム・ガーデ
Niels Wilhelm Gade(1817-1890)
交響曲 第1番 ハ短調 op.5 ≪シェラン島の美しい平原から≫
交響曲 第5番 ニ短調 op.25


ロナルド・ブラウティガム(p/op.25),
クリストファー・ホグウッド/デンマーク国立放送交響楽団
(英シャンドス CHANDOS CHAN 10026)




華麗なるバイプレイヤー
ガーデ(母国ではゲーゼとかゲーダと発音)は初めてヨーロッパ大陸に名が知れ渡ったデンマーク出身の初期ロマン派の作曲家。 ドイツに渡り、ライプツィヒでメンデルスゾーンの知己を得て私淑し、彼亡き後ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(ヨーロッパでは 最古のオーケストラの一つ)の指揮者の地位を引き継いだ。同じ北欧でノルウェー出身のグリーグをドイツに紹介したり、晩年に故郷のコペンハーゲンで 異才ニールセンを指導したという功績もある。作風は一般にメンデルスゾーンやシューマン等の亜流のように語られることが多いが、その音楽の本質は むしろベートーヴェン風の古典的造形志向が強く求心性も高い。しかし一方では意外な仕掛けを施したり、その上故郷の民謡を引用するなど独自の 創意工夫も認められる。

交響曲は全8曲。ここに挙げた2曲は特に秀作なので「ガーデって誰?」という人には適切。メンデルスゾーンの指揮で初演されたという ≪第1番≫は夜明けの穏やかな海を思わせる序奏からクレッシェンドするドラムロールで嵐のような主部に突入する第1楽章がカッコいい。 若書きにも関わらずオーケストレーションが効果的で古典的な佇まいとロマン派の叙情性が強靭なリズムによってミックスされている。 ハ短調となっているが別に暗い音楽ではない。楽想のために選ばれた調性なのであって、後期ロマン派のように文学的・思想的背景があるわけではない。 楽想の区切りに入る、狩の角笛や進軍ラッパを思わせる金管の信号風音形も効果的。第1&4楽章は独自のカラーをすでに持っているようだが、中間の 2楽章はさすがにメンデルスゾーンを手本にしているらしく、特に≪真夏の夜の夢≫等に似ているのは否めない。しかし「ドイツで一旗揚げるんじゃ! おりゃー!」という作曲家の心意気はいやというほど伝わってくる力作だ。(長ったらしい副題の意味は別に考えなくていいです)

それに比べると≪第5番≫は幾分肩の力が抜けていて、北欧の叙情性が全面に押し出されたロマン性溢れる曲。ピアノのソロが入っているのがポイント。 といっても協奏曲のように主役をはるのではなく、ハイドンの交響曲のように通奏低音を担当してオケに埋没するわけでもない。あくまでオケの中の 1楽器として音色を追求した結果。ソロでもあるがオケの一員でもある、という位置付けだ。後の時代になってショスタコーヴィチやプロコフィエフが 交響曲の中のソロ楽器としてピアノを登場させるが、ガーデの場合は当時としてはかなり珍しい試みと言える。たしかにベートーヴェンの後期のピアノ協奏曲や シューマンのピアノ協奏曲にも同じ志向を見出すことができるが、「交響曲」と堂々と言ってしまったのはガーデが最初かもしれない。叙情的な オーケストレーションに華を添えるが如く華麗なソロが入り、協奏曲風に聴こえるのにきちんと古典派交響曲の持つ様式美にきっちりと収まっている、 というアンビバレンツな所を聴こう。

指揮のホグウッドはかつて古楽器オーケストラでバッハをはじめとするバロック音楽やモーツァルト、ベートーヴェンの歴史的演奏様式の復元研究で 名を馳せたが、現在はモダンオーケストラを指揮してロマン派や近代音楽の演奏にも手を伸ばし、そちらでも業績をあげている。 このCDは4枚からなるガーデ交響曲全集の中の一枚。バロックや古典の作品で培った切れ味のいい指揮によってガーデの才気が充分に生かされているようだ。


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2004.Same.,Fancy Free