今月のびっくりどっきりCD
(2005.6.23.)

フレデリック・クリフ Frederic Cliffe(1857-1931)

交響曲 第1番 ハ短調 op.1(1889)
“雲と陽光”−管弦楽の絵画 (1890)

クリストファー・ファイフィールド/マルメ・オペラ管弦楽団
(スウェーデン・ステルリンク STERLING CDS-1055-2)

超推薦 知られざる作曲家は処女作がいきなり傑作!
19世紀末までイギリスには交響曲作家は皆無に等しく、わずかにパリー(1848-1918)とスタンフォード(1852-1924)らが 挙げられるにとどまる。この二人に続くエルガー(1857-1934)の≪交響曲 第1番≫(1908)の空前の大成功以降、イギリス人の 手による交響曲が次々に生まれていったが、その前に立派な交響曲を書いていた未知の作曲家がいた。それがフレデリック・クリフだ。

エルガーと同年、数ヶ月先にヨークシャーのブラッドフォードで生まれたクリフは幼い頃からピアノやオルガンに親しみ、13歳の時には教会の合唱団の伴奏の オルガンを弾くようになっていたという。自作の指揮をするためにブラッドフォードを訪れたサリヴァン(1842-1900,多くの喜歌劇で知られる)に才能を認められた クリフは彼の薦めによってロンドンで本格的に音楽の修練を積み、ピアニスト、オルガニスト、指揮者、あるいは教師として活躍するようになる。
そんなクリフが、公的に自作を発表したのは既に32歳を過ぎてからだった。それがこの交響曲。「作品1」が交響曲! ロンドンでの初演は成功を収め、クリフを周知の聴衆も突然の処女作がいきなり演奏時間40分を超える大曲で驚いたに違いない。

さてこの交響曲、今まで埋もれていたのが不思議なくらい優れた曲だ。おそらくはクリフがそれまでに演奏活動の中で接してきた様々な音楽作品から消化吸収した 技術やセンスが惜しげも無く投入されいて、この頃のイギリスの作曲家のほとんどがそうだったようにドイツ系の古典〜ロマン派の作品からの影響が強いという事を 考慮してもなお、ドイツ系の同じ時期のブルッフ、ツェムリンスキー、シュミットら(いずれもクリフより高名だが)の交響曲よりもはるかにポピュラリティを 獲得できる作品だといえる。
「ダンダン/ダンダン」とハ調の和音が叩きつけられて始まる第1楽章は、このリズムと「タンタン/タタタ」という2種類のリズムパターンで執拗に 繰り返される第1主題と対照的に夢見るような第2主題とその他短い動機で構成され、各フレーズ間の経過句で金管群の遠い呼び声のようなワーグナー風のコラールが響き渡る。 この楽章のインパクトはかなりのものだ。続く第2楽章はブルックナー(+マーラー)風のスケルツォをメンデルスゾーンのテイストでリファインしたような感じで面白い。
『バラード』と題された第3楽章はこの作品の白眉で、スコットランド民謡風の旋律がブルックナー風の渋いが美しいオーケストレーションで綿々と歌われる 深い音楽で、先輩のスタンフォードの6曲の≪アイルランド狂詩曲≫やエルガーの≪エニグマ変奏曲≫に通ずるものがある。クライマックスでの 「夏の名残の薔薇」のような節がホルンで奏される部分は胸に沁みる。第4楽章は再びメンデルスゾーン風の軽快な音楽に戻り、先行の3楽章よりも 民謡テイストが濃厚で屈託がないが、後半では第3楽章の一部が回想されて威風堂々のコーダを迎える。
交響曲の後に収録されている≪雲と陽光≫はいわゆる交響詩のようなもので、タイトルから想像される通りのイメージが描かれていく。 これも手堅い筆致で書かれた佳作だ。

クリフは≪交響曲 第1番≫の成功後も専ら演奏家・教師としての活動を続けたために74年の生涯で生み出した作品はわずか10曲足らずで、自分が指揮をする以外では あまり演奏会で取り上げられなかったということもあって、クリフの作曲家としての知名度は高くはならなかった。イギリスではこの後エルガーに続き ヴォーン・ウィリアムズをはじめ、バックス、ウォルトン、ラッブラ、アルウィン、ティペットと交響曲作家が次々に現れる事になる。それがクリフの亡き後、 作品が忘れられる事に拍車をかけたのだろう。しかし彼の作品をこれからも忘却の彼方に置いておくのは、音楽愛好家にとって間違いだという事は この2曲を聴けば明らかだ。

このCDで指揮をしているファイフィールドは主にグラインドボーンで研鑚を積んだイギリス人指揮者で音楽家の伝記作家としての顔も持っている。 オーケストラは名前の通りでスウェーデンの歌劇場付楽団で創設は1991年とまだ新しい。いずれにしても未知の存在だったわけだが 万全の合奏と作品への思い入れが感じられる熱演で、忘れられた作品の復権に一役かっている。教会での残響が多い録音は大編成の 作品には不適切な場合もあるが、今回は作品の雰囲気作りにプラスになっていると考えていいだろう。


どうでもいいことだが
Same.のイギリス交響曲ベスト5

1. エドワード・エルガー:交響曲 第2番 変ホ長調 op.63 −人生のBGM(T_T)。
2. ウィリアム・ウォルトン:交響曲 第1番 変ロ短調 −多分世界一カッコいい交響曲。
3. アーノルド・バックス:交響曲 第4番 変ホ長調 −妖しい幻惑の管弦楽。
4. レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ:交響曲 第5番 ニ長調 −雄大で理想的な交響的牧歌。
5. C.V.スタンフォード:交響曲 第3番 <アイルランド> op.28 −青函連絡船に乗りたくなる。
*ラッブラの第4番やパリーの第3番、バントックの<ヘブリディーズ>も捨て難い。


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2005.Same.,Fancy Free