今月のびっくりどっきりCD
(2004.12.20.)

アーノルド・バックス
Arnold Bax(1883-1953)

交響曲 第1番 変ホ長調
交響詩≪クリスマス・イヴ≫


ブライデン・トムソン/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
(英シャンドス CHANDOS CHAN8480)

決して楽しくはない、しかし美しく忘れがたいクリスマスの音楽。
特に新譜ではないのだが自分の愛聴盤から。この季節にはタイムリー・・・とみせかけて実はそうでもないシリアスな作品を。

イギリスの孤高の作曲家バックスが数多く残した交響詩はいずれも浪漫性の高い美しい名作揃い。なかでもこの≪クリスマス・イヴ≫はバックスの曲 としては比較的分かり易い構成と親しみのあるメロディと壮大なスケールを併せ持った傑作なのに、ほとんど知られていないのが残念。 1912年に一度完成されて初演された時の題名は≪山上でのクリスマス・イヴ≫で、その後改訂されて現在の題名に改められたがバックスの生前は とうとう演奏されず、その改訂版が初めて陽の目を見た時には既に67年の月日が流れてしまっていた。 題名からするとなんだかただの季節もののように思われがちだが、バックスはキリスト生誕の情景を描写しようとは考えておらず、イエスの生涯に なぞらえつつも人間そのものの死生観を抽象的に表現しようとしているようだ。

曲はR.シュトラウスも≪ツァラトゥストラはかく語りき≫で使ったグレゴリオ聖歌の「クレド(信仰告白)」の旋律を中心に構成されている。まず低弦の 持続音に支えられてハープのモノローグから始まり、次いでオーボエのソロに寂しげで素朴な祈りの気分を帯びたメロディが現われる。 その後徐々に他の楽器が加わるが、終始物憂げなそれでいて愛しくなるような音楽が静々と続く。曲の中程でオルガンが低音とリズムを支えるために静かに 加わると音楽は厳粛な雰囲気に変わり、前半とは対照的なクライマックスを迎える。それまで地を這うような低音を聴かせていたオルガンが突然壮麗な 高音を響かせて全楽器の斉奏の中から浮き上がってくるところは天頂に輝く新星さながらで、この曲の一番の聴きどころ。やがて静かに終結を迎えるが、 ここでわずかな間荒涼とした大地を空しく風が渡るような不安げな表情に変わり、コーダで冒頭のメロディの一部が全強奏されて 最後の音はいつ果てるともなく引き伸ばされてディミヌエンドして終わる。それは人生の暁か黄昏か。

併録の交響曲第1番は(本当は≪クリスマス・イヴ≫が併録曲だが)まず長大なピアノ・ソナタとして完成され、その形で初演された後に交響曲として 改作されたもので、他の6曲の交響曲とは成立事情が異なる。幻想的な交響詩やピアノ曲に対してバックスの交響曲はより厳格な趣と複雑な構成が特徴で、 この第1番もピアノ・ソナタから編曲されるに当たって細部の表現が変更されてより厳しく寒々としたモノトーン風の表情を持つようになり、オリジナルの ピアノ・ソナタよりもちょっととっつきにくいかもしれない。とはいってもピアノ・ソナタ版のCDはほとんど無いので(自分も1枚しか持ってない)比べようが 無いけれど。とりあえず聴きものは第2楽章。ピアノ・ソナタでは夜に寂しい丘の上からわずかな街の明かりを眺めるような雰囲気だったのに、交響曲では まるで核戦争後の赤茶けた大地に佇んでいるような様相を呈しているのだ。

今は亡きブライデン・トムソンは(一人の指揮者による)世界初のバックスの交響曲全集を完成させたイギリスの名指揮者で、ケレン味無く豪壮な指揮ぶりで イギリス産のオーケストラ曲やロマン派の協奏曲の伴奏で多くの名演を残した。このCDでも≪クリスマス・イヴ≫の美しさは言うに及ばず、交響曲第1番も やや遅めのテンポでたっぷりオケを鳴らしてバックスのオーケストレーションの凄さを実感させてくれる。


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2004.Same.,Fancy Free