今月のびっくりどっきりCD
(2005.4.18.)

ヨハネス・ブラームス Johannes Brahms(1833-1897)

交響曲 第1番 ハ短調 op.68
悲劇的序曲 op.81
大学祝典序曲 op.80

マリン・オルソップ/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
(香港ナクソス Naxos 8.557428)

バーンスタイン最後の弟子、名曲に挑戦。
アメリカの女流指揮者オルソップは日本の佐渡裕、大植英次と並んでバーンスタイン晩年の弟子だったことで知られている。 15年前に札幌でオルソップがベートーヴェンの≪交響曲第2番≫を指揮したのを聴いたことがあったが、こんなに活躍するようになるとは 当時は思いもよらなかった。
バーンスタイン亡き後、オルソップは主にアメリカの近現代曲の演奏で評価を高めた。このCDと同じナクソス・レーベルから出ている サミュエル・バーバー(1910-1981)の管弦楽作品シリーズは重要曲をほとんど網羅し、良質の演奏で入門用にもコレクション用にも大推薦の 素晴らしい仕事だと思うし、最近リリースされたフィリップ・グラスの≪シェイカー・ループス≫や≪交響曲第2番≫&≪交響曲第3番≫の CDもイイ。また、数年前に録音した初めてのメジャー曲であるチャイコフスキーの≪交響曲第4番≫も秀演だった。

そんなオルソップが久しぶりに名曲を録音した。今回はもうメジャーすぎてごまかしが効かないブラームスの≪交響曲第1番≫。 大抵の指揮者が仕事始めとか仕切り直しとか新しい任地での勝負曲としてこの曲を選ぶ事が多い。やはりベートーヴェンで確立された 「闘争から勝利へ」のドイツ観念論的ベタな展開を究極にまで推し進めた感のある音楽をどう料理するかが腕の見せ所となるからだろうか。 誰でも知っているような名作の演奏は緊張するものだが、オルソップはことさら力こぶを入れているようには感じさせない早めのテンポで 颯爽と進めていく。そういえば去年の11月に西本智美がこの曲を振った時もこんな感じだった(ただし西本智美はスコアの縦の線をそろえる 感じだったが、オルソップは横の流れ、フレージングの滑らかさに重きを置いているように感じる)。珍しく第1楽章の反復を実行しているが、 テンポによってはダ・カーポした直後のティンパニの一打に違和感を感じる(ブラームスが経過句を作らずに几帳面に戻るだけの指定をしているから) のだがこの演奏ではそれはあまり気にならない。

総じて、快適なテンポと各楽器をソフトにブレンドさせた音作りのために、この曲が持つある種の押し付けがましさが後退して大変聴き易い。 惜しむらくはロンドン・フィルの音になんとなくしまりがないことで、これでも普通のオケに比べれば上等には違いないがテンシュテットや トムソンが指揮した時のこのオケの音を知っている身としては無いものねだりをしてしまいたい心境(その二人が凄すぎたのだが)。 特に≪悲劇的序曲≫ではオケの音の軽さが裏目に出ていて今ひとつこの曲の求心性や凄みに不足しているが、かつての「大学受験ラジオ講座」で 御馴染みの≪大学祝典序曲≫は曲の性格上あまり気にならないし、弦の音の引っ張り方や最後の追い込みなど師匠だったバーンスタインに似ていなくもない。

ま、カタイ事言わなければ大曲に気の利いた小品が2つも付いた盛りだくさんの内容で水準以上の演奏が聴けるのだから、ブラームス入門にも お薦めできるCDだ(そうでなければここに書かないし)。しかも1000円前後で買えるし(スリップケース付なのに)。このレーベルに関しては 「安かろう悪かろう」の法則は当てはまらない。
ところでこのCD、できれば≪悲劇的序曲≫を頭にしてトリを≪大学祝典序曲≫で交響曲を挟んでくれると通しで聴く時にイイ感じだったのだが。 ≪交響曲第1番≫がせっかく大見得切って終わったのに、余韻も消えないうちに≪悲劇的序曲≫でまたドカンとぶちかまされるのはちょっとイヤ。


戻る

このページの文章の無断転載は認めません。ブックレット画像はSame.所有のCDをスキャンしたものです。

2005.Same.,Fancy Free