今月のびっくりどっきりCD
特集・2005年の私的ベスト10+α
(2006.1.12.)

昨年購入分約270タイトル(いつもより100タイトルくらい少ないな)から、普段のチョイスとは別に「これは」と思ったものを紹介。 前回は一つずつUPしましたが今回は一気に掲載。順序は特に意味ありません。それにしても最近は昔のライヴ録音の復刻が多いです。 名演奏家の在りし日の音源が公になるのはありがたいですが、翻れば現役の演奏家の録音にそれだけ惹きつける ものが少ない、という事にもなるので好事家としては痛し痒しです。

01 & 02

ベートーヴェン:交響曲 第7番 イ長調 op.92
ブラームス:交響曲 第3番 へ長調 op.90


クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
(英BBCミュージック BBC Music BBCL4167-2)

プロコフィエフ:
交響曲 第5番 変ロ長調 op.100
交響曲 第7番 嬰ハ短調 op.131(第2版)


クラウス・テンシュテット/バイエルン放送交響楽団
(独プロフィル Profil PH05003)
2005年もテンシュテットのライヴが相次ぎ正規盤でリリース。生前良い録音に恵まれなかった名匠へのせめてもの手向けとなるだろう。
それにしてもどれもこれも凄絶な大激演ばかり。正に命を削っているとしか思えない。「聴きなれてる名曲なんだから、大した事無いよ」などと 言う人は聴かない方が身のためだ。不用意に耳にして寝込まれても困るので。冷たい肌触りのオーケストレーションのはずの プロコフィエフ(1977年LIVE)すらどす黒い血が噴出しそうな煮えたぎる表現。身を引き裂かれそうなブラームス(1983年LIVE)には唖然。第1楽章の 反復は省略されているが、これで反復されたら聴いている方の身が持たないだろう。終楽章はこの世の終わりにでも鳴っていそうな音楽だ。 そしてとどめはオケも観客も全員トランス状態のベートーヴェン(1989年LIVE)。「終楽章はクラブ・ミュージックの先取り」というグレン・グールドの コメントにもこの演奏の前にしては頷かざるを得ない。

03

モーツァルト:交響曲 第40番 ト短調 K.550
マーラー:≪大地の歌≫

ブリギッテ・ファスベンダー(メゾ・ソプラノ),
フランシスコ・アライサ(テノール),
カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(独オルフェオ Orfeo C 654 052 B)
昨年惜しくも他界したジュリーニの追悼盤。1987年のザルツブルク音楽祭でのライヴで、マーラーの≪大地の歌≫は当時NHKでも放送されて話題になった演奏。 同時期のベルリン・フィルとの録音同様、草原を渡る風や鳥の鳴き声、少女の笑い声の暗喩等はさほど重要視せず限りなく純音楽的に磨きぬいた美しい表現。 併録のモーツァルトもこの頃に台頭し始めた古楽器奏法など薬にしたくもないほどの悠揚迫らぬテンポで歌い、これもまた美しい。

04

クレンペラー/ウィーン・フィル1968ライヴBOX
バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第1番,
モーツァルト:セレナード 第12番,交響曲 第41番≪ジュピター≫
ベートーヴェン:交響曲 第4番,交響曲 第5番,≪コリオラン≫序曲
シューベルト:≪未完成≫,ブルックナー:交響曲 第5番,
マーラー:交響曲 第9番,R.シュトラウス:≪ドン・ファン≫,他
オットー・クレンペラー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(英テスタメント TESTAMENT SBT8 1365)
1968年ウィーン芸術週間でのクレンペラーの演奏会のほぼ全てを網羅した聴き倒し甲斐のある8枚組(ボーナスCDで1958年のライヴも付いている)。 当時のオーストリア放送協会による良好なステレオ録音をリマスタリング。
全編通して晩年のクレンペラー特有の巨大な表現が堪能できるが、中でもベートーヴェンの≪第5番≫とシューベルトの≪未完成≫は以前ドイツ・グラモフォンでも 期間限定で発売された事がある両曲の演奏史上でも一、ニを争う極めつけの名演。そしてクレンペラーの指揮の師匠でもあったマーラーの≪第9番≫では当日会場で 聴いていた若い頃のアバドやメータが驚愕したという曰くつきの演奏が聴ける。超スローテンポのモーツァルトの≪ジュピター≫やバッハの ≪ブランデンブルク協奏曲 第1番≫も面白い。クレンペラーはどんなに遅いテンポをとっても、その音楽からは推進性や力強さが失われないという稀有な指揮者だった。

05

メンデルスゾーン:
≪真夏の夜の夢≫序曲 op.21(1826年初版)
交響曲 第2番 変ロ長調 op.52≪讃歌≫(1840年初演版)

アンネ・シュヴァネヴィルムス&ペトラ=マリア・シュニッツァー(ソプラノ),
ペーター・ザイフェルト(テノール),
リッカルド・シャイー/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団&合唱団,他
(英デッカ DECCA 475 6939)
2005年、世界最古のオーケストラの一つであるライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の音楽監督がブロムシュテットからシャイーにバトンタッチ。 その就任記念演奏会では、かつてこの楽団の指揮者を務めていたメンデルスゾーンの作品が演奏された。しかも楽譜は現行版ではなく、ほとんど 演奏されたことのない初版、あるいは初演版が使われたことでも話題となった。
≪真夏の夜の夢≫序曲は劇音楽としてまとめる以前に先行して書かれた初版。≪讃歌≫の初演版もシンフォニアの冒頭からして音型が違い、 その後のカンタータ部分でも歌詞が違っていたり独唱パートの振り分け方が変わっているが、やはりメンデルスゾーンの後年の改訂は正しかったことが解る。 交響曲としてのドラマツルギー性は現行版の方がはるかに高いからだ。しかし版の相違はともかく演奏だけとれば非常な秀演であり、記念すべき演奏と言えるだろう。

06

アクロン:
ヴァイオリン協奏曲 第1番 op.60
≪ゴーレム≫組曲
≪ベルシャザール≫より2つのタブロー

エルマー・オリヴェイラ(ヴァイオリン),
ジョゼフ・シルヴァースタイン/ベルリン放送交響楽団,他
(香港ナクソス Naxos 8.559408)
知られざる逸品。ロシア生まれで主にアメリカで活動したユダヤ人作曲家アクロン(Joseph Achron,1886-1943)が、名手ハイフェッツのために書いた協奏曲は 後期ロマン派様式の濃厚な表現と、それに対する現代的でドライな響きのオーケストレーションに、独奏ヴァイオリンの超絶技巧が交錯するというもの。 出だしからいきなり悲壮感漂うフレーズで泣かせてくれるが、実はユダヤの古い旋律でバーンスタインも≪交響曲 第1番 "エレミア"≫で使っているので 双方聴き比べてみるのも一興。併録は舞台劇のために書かれた小品。

07

アルウィン:
ピアノ協奏曲 第1番,ピアノ協奏曲 第2番
≪ダービー・デイ≫序曲,トッカータ風ソナタ

ピーター・ドノホー(ピアノ),
ジェームズ・ジャッド/ボーンマス交響楽団
(香港ナクソス Naxos 8.557590)
昨年生誕100年のイギリスのアルウィン(William Alwyn,1905-1985)は映画音楽や十二音技法で書かれたシリアスな交響曲が代表作に挙げられるが、 洒脱な味わいのピアノ曲もなかなかいい。ピアノを打楽器的に扱い、速いパッセージが縦横無尽に駆け巡る≪ピアノ協奏曲 第2番≫はバルトークあたりが 好きな人にはお薦め。しかしどんなに音楽が荒れ狂ってもノーブルな佇まいを保持しているのは、やはりイギリス人ならではといったところ。 独奏曲の≪トッカータ風ソナタ≫も技巧的な音の連なりがこけおどしや嫌味にならず、じっくり聴かせてくれる佳作。

08

ショスタコーヴィチ:
交響曲 第4番 ハ短調 op.43(2台ピアノ版)

ラステム・ハイロウディノフ&コリン・ストーン(ピアノ)
(英シャンドス Chandos CHAN10296)
長大重厚・破滅的な第1,3楽章と投げやり風で極端に短い第2楽章から成る意欲作でありながら1936年のソ連共産党の批判により初演を中止、その後25年も お蔵入りになった不運の交響曲。その作曲者自身によるピアノ2台用編曲。これもこのCDの録音まで陽の目をみる事はなかった。交響曲のピアノ版などというと テクスチュア的に既に原曲に負けている気がするものだが、この曲でそれは当てはまらない。ピアノだけの強靭な響きによってこの曲が持つ辛辣で危険な本質が オーケストラによる演奏よりもストレートに伝わってくる。

09

ターネージ:
≪Scherzoid≫(2004),≪Evening Songs≫(1998),
≪When I Woke≫(2001),≪Yet Another Set To≫(2005)

クリスティアン・リンドベリ(トロンボーン),
マリン・オールソップ/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団,他
(英ロンドン・フィルハーモニー London Philharmonic LPO-0007)
イギリス現代音楽界の出世株にしてロンドン・フィルの昨年のレジデント・コンポーザーだったターネージ(Mark-Anthony Turnage,1960- )の近作のライヴ音源を 集めた注目のCD。クラシックとジャズの語法のブレンドを基本としたターネージの音楽は予備知識が無くても耳に入りやすく、作品によってはプログレッシヴの 要素も加味されていて聴き応えのある曲が多い。
例えば≪Scherzoid≫はベートーヴェンやブルックナーのスケルツォのテイストをモダンジャズ風に現代に蘇らせた粋な作品。≪Yet Another Set To≫は実質3楽章からなる トロンボーン協奏曲で、ソロの超絶技巧とスウィングするオケの掛け合いが素晴らしい。湧きに湧く聴衆の拍手と歓声も納得。これは何度でも聴きたくなる。

10

モーツァルト/フンメル編曲:
ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調 K.537≪戴冠式≫(室内楽版)
ピアノ協奏曲 第22番 変ホ長調 K.482(室内楽版)

白神典子(ピアノ),ヘンリク・ヴァイゼ(フルート),
ペーター・クレメンテ(ヴァイオリン),ティボール・ベニー(チェロ)
(瑞典BIS BIS CD-1537)
モーツァルトの一番弟子フンメル(Johann Nepomuk Hummel,1778-1837)の編曲による室内楽版ピアノ協奏曲シリーズ第3弾。ピアノと管弦楽のための作品を たった4人で演奏するわけだが、モーツァルトの後期の協奏曲で一際規模の大きい≪第22番≫も原曲と比べても全くひけをとらない内容だ。
さらに凄いのは≪第26番≫。初演でモーツァルトがアドリヴで弾いてしまったのでピアノパートがメモ程度しかない上、全体的に楽譜に不備が多く まともに演奏しても中身が薄いとしばしば批判される曲だが、なんとフンメルはモーツァルトの実演を自分の記憶を頼りに再現して音符を補い、原曲を超え モーツァルトが理想としたであろうレベルの作品に仕上げてしまったのだ。

+α

吉松隆:チェシャねこ風パルティータ,
■■■ 4つの小さな夜の歌,プレイアデス舞曲集 IIIa
ドビュッシー:夢,運動,アナカプリの丘,ミンストレル
ヒナステラ:アルゼンチン舞曲集

パ・ドゥ・シャ [小柳美奈子(ピアノ)&山口多嘉子(打楽器)]
(佼成出版 KOCD-2518)
ピアノとパーカッションという編成による、吉松隆(1953- )すちゃらか路線の新作。はいはい、すちゃらかですよ。≪プレイアデス舞曲集≫の新編曲版や ドビュッシーのピアノ曲のアレンジも併録されていて、こちらはゆったりほのぼの系だが≪4つの小さな夜の歌≫が特に胸に染みる。ボーナストラックは 再びすちゃらか。吉松氏も演奏に加わって変な電子音を発して大騒ぎ。この人のすちゃらか路線は飽きないので、将来すちゃらかな交響曲を書いてもらいたいです。

と、こんな感じ。各コメントはポイントだけで短めに抑えました。もっともいつものが長すぎるんですけど。毎年のことですが、 いざ10枚程度に絞ろうとするとかなり無理があって、マタチッチやスヴェトラーノフのものは落としてしまった(結局ライヴ盤が多いわけだが・・・)。 それらは別の機会にということで。


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2006.Same.,Fancy Free